私たちが自然環境を守るためにできる”暮らし方”
はじめに
私たちのくらしは,さまざまな人や物そして地方とつながっています。何気なく使っている電気や物が,地方の自然環境の犠牲の上に成り立っているとしたら悲しいことです。今回は,意識しないと気がつかない都会や先進国のくらしが地方の自然環境に与える影響についてお話しします。
1 都市や先進国のくらしが地方の自然環境に与える影響
東日本大震災をきっかけに「東京で使われている電気の一部は福島県の発電所で作られている」という事実を知った人も多いのではないでしょうか。東京で使われている電気の一部は福島県で作られています。そして福島県は,地震により大きな被害を受けました。東京でくらしている人々は,自分が使っている電気がどこで作られているかを考えず,何気なく電気を使っていたのかもしれません。しかし,福島県の人々と自然環境はその電気を作る発電所によって今でも大きな影響を受けているのです。
世界規模で考えると,北極やアラスカは気候変動の影響がいち早く大きく出る傾向があります。気温上昇によりとけた海氷は海面をむき出しにします。そして,むき出しになった海面は太陽光をそのまま吸収し,海水温を上昇させるのです。海に囲まれた地方の島や北極はいち早くその影響を受けます。気候変動の原因となる温室効果ガスをたくさん排出している都市や先進国に影響が及ぶ前に,温室効果ガスとは無縁の生活を送っている地方の人々や自然環境は影響を受けているのです。
2 日本で行われている地方の自然環境保全の取り組み
日本では,地方を含めた自然環境を守るための法律があります。1972年につくられた「自然環境保全法」です。1971年には環境庁が発足し,1970年代は高度経済成長の中で自然環境について深く考えられた時期でした。自然環境保全法がつくられた目的を簡単に説明すると「自然環境保全が必要な地方や地域の生物や自然環境の多様性の確保と適正な保全を総合的に推進すること」です。以降,内容は時代にあわせて改定が数回行われました。1993年には環境基本法も定められました。
日本では企業も自然環境保全に取り組んでいます。例えば,キッコーマンは2013年に生物多様性ちば企業ネットワークに参加しています。生物多様性ちば企業ネットワークとは,企業による生物多様性の保全,そして持続可能な利用の取組を支援する千葉県の取り組みです。具体的な活動内容は,絶滅危惧種の保護や啓発活動,植樹などです。
生物の多様性については,SDGs目標15「陸の豊かさを守ろう」にも掲げられているテーマです。地球温暖化によって自然環境が変わり,たくさんの動植物が絶滅しています。生物の多様性とは,地球上の動植物や小さな生物すべてがつながりあって生きることです。都会や地方などの区別なく,自然環境を守り生物の多様性を守ることが求められています。
参考URL:生物多様性ちば企業ネットワーク https://www.bdcchiba.jp/cooperation/kigyou/network/kigyounetwork.html
3 地方の自然環境を生かしたくらしの実例
地方の自然環境を保全する方法の一つに,自然環境を生活の中で生かす方法があります。生活や仕事に自然環境を取り込むことで,自然環境の大切さや魅力を周知させることができるのではないでしょうか。
例えば,新潟県上越市は降雪量が多いことで有名です。雪深い自然環境は「大変」という後ろ向きのイメージがあるかもしれません。しかし,新潟県上越市は「雪深い自然環境」を逆手にとって,生活そして町おこしにいかしています。日本で初めて雪を商品にした「雪の宅配便」をはじめました。さらに雪国文化村構想を掲げ,雪の利用方法や技術開発をすすめています。福島県では逢瀬いなか体験交流協議会があります。福島県の農家にホームステイをして農業体験をします。体験メニューは豊富にあり,目的や期間によって選ぶことができます。中でも「耕作放棄地での企業農地づくり」は,耕作放棄地を無償で提供して土づくりから始めます。現地の農家がサポートするため,農業に不慣れな人でも無理なく地方の自然に飛び込むことができます。都会の人は,ハードルが高い地方の農業を知るいい機会になり,地方の人は耕作放棄地を管理するいい機会になるウィンウィンのプロジェクトです。
地方の自然環境を都会でくらしながら実感することは難しいです。少しでも実際に地方の自然環境に接することで,自然環境の大切さを感じ,大切にするくらし方を考えるようになるのではないでしょうか。
参考URL 雪の宅急便http://www.yukidaruma.or.jp/?page_id=299
逢瀬いなか体験交流協議会https://ouse-taiken.com/
おわりに
地方の自然環境を守るためには,住んでいる場所に関係なく「自然環境」を意識したくらし方が大切です。例えば,温室効果ガスをたくさん排出する火力発電ではなく,風力発電のような「自然にやさしい発電をしている電力会社を選ぶ」や,食品ロスを防ぐために「必要なものを必要なだけ購入する」そして「地産地消を心がける」など住む場所に関係なく自然環境に優しいくらしをすることはできます。都会のくらしのために地方の自然環境を犠牲にするのではなく,地方の自然と共存できるくらしを目指してみてはいかがでしょうか。