引きこもりの方に対する”教育的な支援”
はじめに
「80・50問題」は社会問題としても取り上げられていますので,ご存じの方も多いと思います。退職をしてすでに80歳になる年金暮らしの親が,50代の子供を支えるという構図を表現したものです。背景にあるのは,子供の「引きこもり」とされています。
年々,引きこもりの人数は増え続け,2023年に発表された統計資料では,146万人(15〜64歳)と,依然高い数値で推移しています。引きこもりは,大変深刻な問題であることに加えて,私自身教育に携わる身として,避けて通れない大きな課題であると考えています。
今回は,教育的な側面から,引きこもりのあり方を述べていきます。
1 引きこもりの定義と問題点
引きこもりとは,どのような状態を言うのでしょうか?最初に引きこもりの定義について共有しておきましょう。
「引きこもりとは,社会的な活動を極度に避け,家庭や自宅の中で過ごす状態を指します。」引きこもりは,しばしば若者や成人の心の面や社会的な活動に影響を及ぼし,特に教育という側面において重要な問題となっています。
引きこもりの方々に対する教育(学び)のあり方を詳しく述べることは,個々の状況やニーズに応じた包括的アプローチを検討することを意味します。
難しい言葉を使いましたが,つまり,引きこもりの方に対する「教育(学び)」について議論することは,勉強ができるようになるとか,成績が上がるとか下がると言う側面だけでなく,キャリアや社会的な活動(生き方や人生)に大きな影響を及ぼす大切な内容を含んでいるということです。
2 理解と対応
引きこもりの状態にある人々に対する教育は,まずその背景や原因を理解することから始まります。心理的な問題,社会的な孤立,学業や仕事への圧力,家庭内の問題などが引きこもりの原因となることが多いため,個別のケースワーカーが関与し,その背景を丁寧に分析する必要があります。ここでの理解は,教育方針を立てるための基本的な要素となります。無理強いをせず,引きこもりの方自身を理解して,心のあり方に沿った支援が必要になります。
3 個別化された学習計画
一般的な学校や教育機関での通常のカリキュラムが引きこもりの方には適していないことが多いため,個別化された学習計画が重要になります。
引きこもりの方に対する教育計画は,その人のニーズや興味に基づいて作成され,柔軟性を持って適応されるべきものです。例えば,オンライン学習プログラムや自宅学習のサポート,実地体験を伴う学びの機会などが含まれます。
この点は,実際に教育課程を作ることができる専門的な知識が必要になるでしょう,
4 心理的なサポートとカウンセリング
引きこもりの方々にとって,心理的な側面も非常に重要です。教育プロセスにおいては,心理的なサポートやカウンセリングが不可欠です。これには,自らの存在を積極的に評価できる自己肯定感を回復させ,自ら社会に関わろうとする気持ちを向上させ,自分から学ぼうとする動機付けを促進することなどが含まれます。心理カウンセラー,臨床心理士,または専門の心理療法家が関与し,安定した環境での学びをサポートします。
つまり,学ぶことや社会に関わろうとすることも含めて,自分から「積極的に」活動できるように働きかけることが重要になると言うことです。
5 社会的な接続と支援
引きこもりの方々が社会的な孤立感を軽減し,より広い社会とつながるための支援も重要です。教育機関は,地域コミュニティとの連携を強化し,引きこもりの方々が社会参加を促進できるよう支援する必要があります。地域活動への参加やボランティア活動の機会を提供することで,自己肯定感の向上やスキルの獲得につなげることができます。
学びたいと言う気持ちを大切に育み,その上で社会で使える技能を磨いていくことが重要になります。
6 技術とオンラインリソースの活用
近年,技術の進歩により,引きこもりの方々にとってはオンラインリソースやデジタルツールが有効な学習支援手段となっています。これには,遠隔教育プラットフォームの利用,ビデオ会議を通じた遠隔指導,インタラクティブな学習アプリケーションの活用などが含まれます。これらの技術を活用することで,引きこもりの方々にとってもアクセス可能な学びの機会が増え,自己学習の促進に寄与します。
目的に特化した遠隔教育やオンライン授業など,最近のテクノロジーの進歩により,活用できるものはたくさんあります。活用できるものは積極的に使っていくことが重要になってきています。
7 家族との協力
引きこもりの方々の教育においては,家族との協力も欠かせません。家族は支援者であり,安定したサポートシステムを提供する役割があります。家族との連携を強化し,引きこもりの方が教育プロセスにおいて適切な環境で成長できるよう努めることが重要です。この場合,特に,引きこもりのご家庭とのコミュニケーションを継続的に取り,協力して取り組んでいく姿勢を示していくことで,家族や引きこもり当事者の心の壁をとっていくことが重要な観点になります。
8 就労やキャリア支援
先にも述べましたが,引きこもりの方々にとって,教育は単に学業の達成だけでなく,将来の就労やキャリアの準備にも密接に関連しています。教育機関は,職業訓練プログラムやキャリアカウンセリングを提供し,引きこもりの方々が社会的経済的な自立を目指すための支援を行う必要があります。身近に引きこもりの方がいる場合は,その方が学ばないことによる不利益を被らないように,行政への働きかけをしていくことも重要になります。
おわりに
引きこもりの方々に対する教育のあり方は,個別化されたアプローチと包括的な支援が重要です。心理的な側面から技術的な支援まで,多岐にわたるサービスが必要です。また,地域社会や家族との協力も不可欠です。
引きこもりの状態からの復帰を支援し,その人々が社会的に満足できる生活を送れるようにするためには,教育機関や関連機関の緊密な連携と,個々のニーズに応じた柔軟で包括的な支援が不可欠です。
「学び」は「生きること」につながる自覚を持っていたいものです。