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災害は「心」にもやってくる―いまこそ学びたい心理ケアと心の備え

  
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災害は「心」にもやってくる―いまこそ学びたい心理ケアと心の備え

はじめに:目に見えない“こころの被害”に気づいていますか?

地震、大雨、台風、火山噴火…私たちが暮らす日本は、世界でも有数の“災害大国”です。災害への備えというと、「水や食料の備蓄」や「避難訓練」といった“物理的な対策”を思い浮かべる方が多いでしょう。しかし、見落とされがちなのが「心の備え」、すなわち災害後の心理ケアです。

災害がもたらすのは、建物の崩壊やインフラの寸断だけではありません。避難生活によるストレス、愛する人との別れ、将来への不安…。それらが積み重なると、心の傷は目に見えないまま深くなっていきます。

このブログでは、「災害後心理ケアのスキルと心の備え」について、具体的なスキル、実践による効果、国内外の事例を交えながら、わかりやすく解説していきます。(写真:カウンセリングを受ける男性)

第1章:災害が心に与える影響とは?

1-1.「こころの被災」=見えない被害

災害を経験した人々が感じる心の症状には、以下のようなものがあります。

  • 不安、恐怖、怒り、無力感
  • 睡眠障害、悪夢
  • 些細な物音に過敏になる
  • 他人や家族との関係性の変化(孤立感・攻撃性)
  • うつ症状やPTSD(心的外傷後ストレス障害)

これらは決して「弱い心」ではなく、ごく自然な反応です。特に子どもや高齢者は、環境の変化に敏感であり、周囲のケアが不可欠です。

1-2.心理的応急処置(Psychological First Aid:PFA)とは?

災害直後に行うべき心理ケアの一つが、**PFA(心理的応急処置)**です。これは、心理的トラウマを悪化させないための国際的なスキルで、誰でも実践できる内容になっています。

第2章:誰でもできる!心理ケアの基本スキル

2-1.傾聴の力(Listen)

最も重要なスキルは、「話を聞くこと」です。アドバイスをする必要はありません。「うんうん」「それはつらかったね」など、相手の感情を受け止めるだけでも、安心感につながります。

ポイント:

  • 否定しない
  • 過剰に詮索しない
  • 話すかどうかは相手の自由

2-2.安心・安全の確保(Protect)

避難所や家庭内で、「安心できる空間」を作ることは心の安定に直結します。例えば、静かに過ごせる場所を用意したり、他人の視線が気になる人にはカーテンやついたてを工夫することが大切です。

2-3.情報の提供と整理(Connect)

避難情報や生活支援の情報が得られないことも、不安や混乱の原因になります。信頼できる情報源から、必要な支援を「わかりやすく伝える」ことも心理的ケアにつながります。

第3章:実践して感じた効果と成果

実際に日本各地の災害後に、心理的なケアが導入された事例では、以下のようなポジティブな成果が報告されています。

3-1.東日本大震災(2011年)

PFAの導入によって、避難所内での暴力や混乱が減少。また、子どもたちの不安や夜泣きが軽減され、「笑顔が戻った」と保護者や教員が報告しています。

3-2.熊本地震(2016年)

地域の学校や保育園で「心のケア教室」が設置され、子どもたちが「自分の気持ちを表現できる時間」が設けられました。その結果、不登校や家庭内ストレスが減少し、保護者の満足度も高まりました。

第4章:心の備えは、日常から始まる

心理的ケアは「災害後だけ」のものではありません。日頃からの心の防災訓練が重要です。

4-1.「気持ちを言葉にする」練習

家族や友人と「今日あったイヤだったこと」「うれしかったこと」などを話し合う時間を設けてみましょう。感情のラベル付けは、災害時にも「自分の気持ちに気づく力」として活きてきます。

4-2.リラクゼーションやマインドフルネス

深呼吸やストレッチ、マインドフルネス瞑想は、ストレスを軽減し、自律神経を整える効果があります。非常時にも心を落ち着ける習慣として有効です。

ストレスを感じた時の解消法を身につけておきましょう

第5章:世界の実践例に学ぶ

5-1.アメリカ:FEMAと学校連携のPFA訓練

米国連邦緊急事態管理庁(FEMA)は、全国の教育機関と連携して、児童向けのPFAワークショップを実施。子ども自身が「誰に頼れるか」「どんな行動が安心につながるか」を視覚的に学べるツールを配布しています。

5-2.ノルウェー:自然体験による心理回復

ノルウェーでは、災害後の子どもたちに自然体験(森林でのグループ活動や焚き火体験など)を通じて、心の回復を図るアプローチが取られています。自然の中で五感を使って遊ぶことで、緊張状態がほぐれ、PTSDの予防にも効果的です。

5-3.フィリピン:宗教・地域コミュニティとの連携

自然災害が頻発するフィリピンでは、心理ケアにおいて「教会や地域の長老」の役割が大きく、PFAに宗教的な安定感を組み込んでいます。住民が「信頼できる場所・人」にアクセスできる仕組みが整っており、継続的な心のサポートが行われています。

おわりに:あなたにもできる「こころの防災」

災害後の心理ケアは、専門家だけの領域ではありません。私たち一人ひとりが「話を聞く」「安心を届ける」「信頼できる存在になる」ことが、周囲の人の“心の復興”につながります。

心のケアに“完璧”はありません。しかし、「誰かの話を静かに聞いてあげること」から、確実に始められます。

そして、何より大切なのは、「自分の心も守ること」。

物の備えだけでなく、心の備えも、今日から家族と一緒に始めてみませんか?