安心安全な「介護と医療」の連携
はじめに
わが国の高齢化が進んでいることはご承知の通りで,2019年の高齢化率は28.4%,平均寿命は男性が81.41歳,女性が87.45歳となっています。健康で長生きできることが大切ですが,介護を受けずに生活ができる「健康寿命」は,2016 年において男性が 72.14 歳,女性が 74.79 歳。
つまり,男性が約9年,女性は約12年程度は,介護や支援を受けながらの生活が必要であると言えます。人生100年時代と言われる中で,いつまでも安心して快適に過ごすことができるように,医療と介護の整備が進んでいます。
しかし,都市部と地方での医療格差が指摘されています。どうしても都市部に医療が集中し,地方での医療体制,また医師や看護師の確保が課題となっているのです。
ただ,地方での医療においても,高齢化が進むにつれて徐々に変化が見られています。
1 地方医療の現状と取り組みについて
地方においては、半径数十キロ圏内に救急病院がないという状況は珍しくなく、一般のクリニックもそれほど多くないという現状があります。
また、医師や看護師の不足が顕著であり、開業医の高齢化が指摘されることもあります。
そのような地方医療において、どのような取り組みが行われているのでしょうか。
病院での役割の明確化
地方医療で活発に行われているのが,地域の病院間で役割を明確化するということです。近隣に救急病院がない状態であれば,一般病院が救急搬送を引き受けることが多いからです。
特に地方では都市部と比べて高齢化が進んでいる傾向が強いために,高齢者に多い脳血管疾患や骨折,循環器系疾患などでの搬送が多くなっています。
そのため,疾患に合わせた病院の役割を明確化することは,地域の医療ニーズを満たすためにとても重要なことなのです。
周辺の医療機関との連携体制
近年では電子カルテの導入が進み,患者さんのカルテを病院間で共有できるという地域が増えました。情報共有がスムーズになることによって,地域を支える開業医が行う診療業務も,効率化させることができるようになったのです。
地方医療の質を高めることにも繋がっています。
地域住民との交流
都市部だけではなく,地方での医療においても地域住民との交流が活発に行われるようになりました。病気に関する情報提供だけではなく,出産や育児,介護,病院経営に至るまで,膝を交えた交流を行って,地域のニーズを掴むことに力を入れています。
このような交流によって,地域にお住いの方々の,安心した生活に繋がっていると言えるでしょう。
医師の育成に力を入れる
医師や看護師の不足は都市部に医療が集中するためであると指摘されることがありますが,医師の育成を地方で担うといった取り組みが行われるようになりました。
研修指定病院として,都市部の大学病院などと連携し,実習の受入れを図る医療機関が多くみられます。
また,奨学金の導入,保育施設の整備など,職場の環境整備にも力を入れることによって,働く医師からも高い満足度を得られるようになりました。
2 地方医療における介護問題を解決する取り組み
地方医療にはさまざまな課題があり,介護に対する問題も生じていると言われていますが,解決するための取り組みも活発化しています。
オンライン診療~ヘルスケアモビリティ車両の導入
新型コロナウイルス感染症の蔓延によって,受診控えが増え,必要な医療まで受けられていないことが問題となりました。ただ,そのことがオンライン診療の普及を推進させるきっかけにもなったのです。
オンライン診療ではスマホやパソコンを活用して診察を受けることができますが,通院負担を減らすことができますので,今後もさらに普及することになるでしょう。
高齢者では導入が難しいという問題もありましたが,近年では「ヘルスケアモビリティ」の導入が注目されています。ヘルスケアモビリティとは,テレビ電話ができる設備を搭載した車両で,看護師が患者さんの自宅に出向き,医師がテレビ電話を通して問診を行います。
看護師は医師の指示に応じて,必要な医療・看護の提供を行うのです。
ヘルスケアモビリティでは患者さんの通院負担,ITリテラシーの問題を解決することができ,地方医療においても医師不足を解消できると期待されています。
かかりつけ薬剤師~薬の相談から医療・介護との連携も
かかりつけ薬剤師には,治療のために用いる薬のことをはじめ,健康や介護のことも含めて相談することができます。地方によって医師が近くにいない,通院するのは負担が大きいなどといった状況においても,安心して医療サポートを受けることができます。
もちろんかかりつけ薬剤師は薬に関することだけではなく,医療機関との連携も密に図っていることから,必要に応じて医療の提供を受けることも可能です。
また,ケアマネジャーなど地域福祉との連携も図っていますので,安心して介護を受けるための環境を整えることにも繋がっています。
介護~地域包括ケアシステムによる医療・地域との連携
介護分野においては地域包括ケアシステムが進んでおり,介護と医療,あるいは近隣の社会資源などとの連携が活発に行われるようになりました。在宅や施設において介護を受ける場合,担当のケアマネジャーが介護計画を立て,必要な介護を適切に受けられるようにさまざまなサービスを導入します。
また同時に,かかりつけ医やかかりつけ薬剤師などとも情報交換をしながら,患者さんの視点に立ったサービス提供体制を構築しているのです。
さらに,自治会やボランティア,老人クラブ,民生委員などとも連携を図っていますので,主体的に地域との関りも取り続けることができます。
まとめ
地方では医師や看護師,介護職員が不足していると言われています。
しかし,そのような中でも地方での介護問題を解決するために,さまざまな取り組みが行われています。
高齢化はさらに進むことが指摘されていますが,地方では今後もニーズにあった医療が提供できるように変化がみられていくことでしょう。